和歌と俳句

飯田蛇笏

雪峡

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夏雲をきざす晴天海黝む

夏兆す雲むらがりて雄冬岬

初夏をなみポプラ彎りて北海道

石狩の雨おほつぶに水芭蕉

鵜が翔ける大石狩の夕焼空

夕焼けて天柱寶の夏嵐

夜の秋の雲をへだつる障子かな

旅名残り雲のしかかる立夏かな

望は翌夜空にたたむ雲の冷え

月の面にいぶく青炎秋に入る

樹に攀ぢし病餓鬼おもふ露の秋

冬黍をつかみてゆるる大鴉

寂として畔の夕かげ稲稔る

犬蓼もはなだちそろふ芋畑

冬に入る真夜中あらき月の雨

霜日和野心金輪際すてず

くづれては瀬をさやかにもしもはしら

つらなりて雪嶽宙をゆめみしむ

一瞬の暮雲うごかす凍茜

日のみくら機影のわたる冬至かな

たまきはるいのちをうたにふゆごもり

夜のなやみあしたにうすれ落葉焚く

北邊の大冬盡くる海を越ゆ

雲は鳴かず大オホツクの冬盡くる

北邊の聖夜にあへる樹氷かな