和歌と俳句

飯田蛇笏

家郷の霧

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曼珠沙華咲きそめし紅ほのかにて

喚聲をあげては隠れ秋の溪

地と水と人をわかちて秋日澄む

あさがほの大地になじむ花の瑠璃

淡々と夕影しみるの出穂

海澄む夜北港あげて流燈會

凪ぎわたる地はうす眼して冬に入る

神は地上におはし給はず冬の虹

遠めきて尖々の澄む八嶽の冬

ひとり踏む山墓の径芝の

つよし忿りをかへす天の壁

つむや亡き兒の形見歳古りて

寒埃りして老農が藁草履

雲みだれ瑠璃のぞきては雪後の天

晴雪に枯れ葉のしげき丘林

日りんに耐ふる雪嶺雲を絶え

野兎追うて雪嶺それし鷹一つ

やむ雪に鷹をはなちて釈迦の嶮

やまびこをこす一行に瀑の凍て

龍尻の渦しづかにての中

雪嶺をわたる陽ここに四度の瀧

たち去るや又凍瀧をふり仰ぐ

山たかく湯瀧はの新しく

あゆむ娘ら温泉の雪光を四方にして