和歌と俳句

秋元不死男

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絵本手に看護の妻が睡る一刻

子が病みて笑はず鴎が河にくる

豆撒く声おこるわが家に灯ともせば

吹雪の中車掌の声がきて美し

手を振り暖冬の街をゆく人ら

白き電柱と碧き海を見たり

母の手袋ちひさし指に指に沁む

冬着冬帽映画の闇に母が見える

夢に来し母はこち向かず炭をつげり

降るに胸飾られて捕へらる

捕へられ傘もささずよ眼に入る

寝ねて不良の肩のやさしく牢霙る

冬シャツ抱へ悲運の妻が会ひにくる

虱背をのぼりてをれば牢しづか

酷寒日日手記いそぐ指爪とがる

水洟や貧につながる手記一綴

獄へゆく道やつまづく冬の石

胸寒く見下ろす獄衣袂なし

絞らるる寒さ独房に灯はひとつ

手を垂れし影がわれ見る壁寒し

青き足袋穿いて囚徒に数へらる

寒夜の音七十の房鍵鎖さる

外人歌ふ鉄窓に金の冬斜陽

借りて読む獄書のくさき十二月

朝なほ夜の獄燈は枯芝に