和歌と俳句

秋元不死男

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花寒きわれに鼻なき餓死仏

積石の米粒ほどや時雨寒

剃り立ての顔にべたべた鴛鴦の水

時雨忌や折目灯に浮く薬包紙

雨音に蕪溺れてひとりぐらし

くさめひびく地下の一本道乾き

翼燈の点滅森を過ぐ聖夜

浚渫船去らねば黒き年の暮

闘魚たたかふ水美しき除夜の隅

心中の崖を見あぐる氷柱かな

短日や帯に噛ませる乗車券

十二月鳶が飼はれて沖を見る

ライオンの欠伸火の色寒汽笛

琴鳴るや本腰入れて枯るる蓮

煮凝りて鰈の菓子のしづかな尾

亀行けば甲羅が去りぬ全き

亀買うてみちのく時雨旅つづく

火を継いで山菜の村がくる

北国を銀漢駈けてがふる

明滅の吹雪星妻を呼びつづけ

墨すれば埴輪のゆるる文化の日

風邪重くなる大根の尻切つて

年の瀬や浮いて重たき亀の顔

しぐるるやいよいよほそき弥陀の指

手庇に舞ふ風花の刻短か