節分や寒気の熊と温気の象
初炬燵して火の東歌を読む
燭の火の根元の青きクリスマス
冬萌や五尺の溝はもう跳べぬ
馬の目に雪が駈けこむ北の国
考へる鰐大寒といふしじま
しぐれ坂笛の豆腐屋下りゆけり
一湾を赤子とわたる冬霞
涙痕のひりひり乾く虎落笛
飛びたがる誤植の一字冬の蠅
黙契のわれらの句句の寒に入る
死はひとつ手ぶらあるきに笹子鳴く
波郷忌の風の落ちこむ神田川
稼ぐ帆のはや沖に出てクリスマス
大根引く黒子の鴉従へて
墨すつて昼暗くせり雪催
納豆や切れて見果てぬ獄中夢
湯婆抱き憎さ湧かぬを嘆きをり
マスクして一言居士が樹を撫でる
てのひらが風花のせてうきたがる
湯煙りを笊が親しむ寒卵
氷柱照る笛立てかけて逝きにけり
短日や晩年日記とびとびに
人の死は誰のあと追ふ虎落笛
風花や墨書のまだ乾かぬに