和歌と俳句

秋元不死男

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

獄の湯に寒き顎漬け息しをり

顔入れて冬シャツは家の匂ひする

寒さ仰いで子と寝し枕獄にする

友らいづこ獄窓ひとつづつ寒し

去年のまま塀と冬空声もなし

獄裡にて情に逢はず二度の

囚人に髪刈られ年逝かんとす

獄の鏡の中の瞳にも顔

雨聞くや凍傷薬を耳にもぬり

獄庭枯る夢見し菓子に色はなく

棲みて獄風邪を引かぬと壁に告ぐ

北風に窓閉づ蓄へ乏しからん

獄信の稿書く紙石版凍てて

独房の冬日わが手に蠅すがる

久に笑ふ太宰治や獄の

文は鉛筆枝で嘴研ぐ寒雀

ぐるりは塀獄にふる限りなし

雪ふつて雑役囚の唇赤し

金銭を二は見ず獄に棲む

凍み果てて獄の七曜終りけり

鏡もて応ふ眼差相寒し

獄凍てぬ妻きてわれに礼をなす

冬木影塀にうすれて妻かへる

緊縛や悴む老の死にゆく背

謝すはただ二冬の色獄の芝

出獄のけふきて午後のふところ手