和歌と俳句

西行

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沢の面に 更けたる鶴の ひとこゑに おどろかされて 千鳥鳴くなり

友になりて おなじ湊を 出舟の 行へも知らず 漕ぎ別れぬる

滝落つる 吉野の奥の 宮川の 昔を見けん 跡慕はばや

わが園の 岡辺に立てる 一松を 友と見つつも 老いにけるかな

さまざまの あはれありつる 山里を 人に伝へて 秋の暮ぬる

山賤の 住ぬと見ゆる わたりかな 冬にあせゆく 静原の里

山里の 心の夢に 惑ひをれば 吹しらまかす 風の音かな

月をこそ ながめば心 うかれ出め 闇なる空に ただよふやなぞ

波高き 蘆屋の沖を 帰る舟 事無くて世を 過ぎんとぞ思ふ

ささがにの いと世をかくて 過ぎにける 人の人なる 手にも懸らで