高橋淡路女
春の夜の月わたること早かりき
つくばひに春あけぼのの水の冷え
ゆく水におそき月日や猫柳
あじきなき日を送りつゝ針供養
在原雛の調度の料紙硯箱
文筆を愛す机に貝雛
貝雛やまこと妹背の二人きり
青丹よし奈良の土産の木彫雛
潮騒の二見泊りに伊勢道者
春水にうつれる椿樹を高み
女どちいとしあはせに青き踏む
春愁や覗く鏡にほつれ髪
まはりやむ色ほどけつゝ風車
巣燕に障子のうちの人静か
蝌蚪の陣さゞ波上を流れけり
日のぬくみ吸うて真つ赤に木瓜の花
髪に触るゝ花房かろし棚の藤
たゝづめば花散る風のあたゝかし