何かある早春の水を覗きけり
春の雷鳴り居し雲の消えにけり
末黒野の黒みわたれる小雨かな
おもむろに鶴歩み出づうらゝかな
着古せし羽織に春の寒さかな
いたづらに古りゆく身かな針供養
ちゝはゝのある子の幸や雛祭
日当りて明るく澄めり蝌蚪の水
猫の子を叱れば何か啼きにけり
初午や思ひがけなき夜の雪
花曇り別るゝ人と歩きけり
蛙の子押しかたまりて安堵かな
ゆるゆると鳴つて通りぬ春の雷
かんばせは春眠とこそ見まつれど
豆雛いみじう飾り栄えにけり
藤の雨飽きて閉めし障子かな
旅人の笠脱ぎおがむ涅槃像
ゆく雲や万朶の花に風のあり
見ぬ人と春惜しみあふ便りかな
居ながらに雲雀野を見る住ひかな
ふり向きしうしろに月や春の宵
あまさかる鄙のをとめも針供養
茶の間にも桃の色紙や雛の宿
睦まじく立て添はせけり紙雛
しどけなく帯ゆるみ来ぬ花衣