和歌と俳句

高浜虚子

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世の中を遊びごゝろや氷柱折る

溝板の上をつういと風花が

磐石の尻を据ゑたる冬籠

もてなしは門辺に焚火炉に榾火

火鉢に手かざすのみにて静かに居

旅鞄そのまゝ座右に冬籠

山の日は鏡の如し寒櫻

水の上をすれすれに鴨渡りけり

枯萩にわが影法師うきしづみ

手あぶりの僧に火鉢の俗対し

エレベーターどかと降りたる町師走

冬木立ちて互にかゝはらず

冬籠人を送るも一事たり

風花に山家住居もはや三年

凍道を小きざみに突く老の杖

御馳走の熱き炬燵に焦げてをり

庭に下り四五歩歩くや冬籠

冬晴や立ちて八ヶ岳を見浅間を見

蓼科に片雲もなし冬の晴

干足袋も裏返されて突つ張りて

耳をなで額をこすり日向ぼこ

北風寒しだまつて歩くばかりなり

寒風に向ひて老を忘れをり

水仙の一花心のままにいけ