和歌と俳句

高野素十

一人きて種蒔くまでの畦往来

墓並ぶ父母妹麦青む

真白に行手うづめて山辛夷

風あたりいたみよごれし辛夷

青みどろもたげてかなし菖蒲の芽

人通りなかなか多し豆の花

汐干岩藻をうちかぶり現れし

汐干岩一つ離れて波の中

方丈の大庇より春の蝶

芹つみに出しわが子等の窓に見ゆ

鮠つるやゆらぐ筏を踏みわたり

柳絮とぶ道の真中に立ちて見る

眼の前に煙出しあり柳絮すぐ

蘖のうちかたまりて吹き靡き

夕空や日のあたりゐる凧一つ

凧の糸二すぢよぎる伽藍かな

寛永寺甘茶の杓の揺れ合へる

桶の中の甘茶減りぬと子が覗く

畦塗りに雪一二片通りすぐ

わが影に畦を塗りつけ塗りつけて

山吹の花のこりたる山路かな

山吹の枝ひろごりて咲き立てる

黄が剥げし山吹の花籬より