一人きて種蒔くまでの畦往来
墓並ぶ父母妹麦青む
真白に行手うづめて山辛夷
風あたりいたみよごれし辛夷
青みどろもたげてかなし菖蒲の芽
人通りなかなか多し豆の花
汐干岩藻をうちかぶり現れし
汐干岩一つ離れて波の中
方丈の大庇より春の蝶
芹つみに出しわが子等の窓に見ゆ
鮠つるやゆらぐ筏を踏みわたり
柳絮とぶ道の真中に立ちて見る
眼の前に煙出しあり柳絮すぐ
蘖のうちかたまりて吹き靡き
夕空や日のあたりゐる凧一つ
凧の糸二すぢよぎる伽藍かな
寛永寺甘茶の杓の揺れ合へる
桶の中の甘茶減りぬと子が覗く
畦塗りに雪一二片通りすぐ
わが影に畦を塗りつけ塗りつけて
山吹の花のこりたる山路かな
山吹の枝ひろごりて咲き立てる
黄が剥げし山吹の花籬より