和歌と俳句

金葉和歌集

權中納言実行
谷川の上は木の葉に埋もれて下に流ると君見るらめや

藤原基光
ながむれば恋しき人の恋しきにくもらばくもれ秋の夜の月

よみ人しらず
つらしともおろかなるにぞ言はれけるいかに恨むと人に知られむ

藤原知房朝臣
おもかげは數ならぬ身に恋ひられて雲居の月をたれと見るらむ

交野女
逢ふことの今はかた野にはむ駒は忘れ草にぞなつかざりける

源兼澄
わぎもこが袖ふりかけし移り香のけさは身にしむ物をこそ思へ

内大臣家小大進
ふみそめて思かへりしくれなゐの筆のすさびをいかで見せけむ

長実卿母
知るらめや淀の継橋よとともにつれなき人を恋ひわたるとは

藤原道経
恋ひわびておさふる袖や流れ出づる涙の河の井堰なるらむ

少将公教母
流れての名にぞ立ちぬる涙川ひとめつつみをせきしあへねば

皇后宮右衛門佐
涙川そでの井堰も朽ちはてて澱むかたなき恋もするかな

源俊頼朝臣
忘れ草しげれる宿を来て見れば思ひのきより生ふるなりけり

源顕国朝臣
かくとだにまだいはしろの結び松むすぼほれたる我が心かな

平祐挙
胸はふじ袖は清見が関なれや煙も波も立たぬ日ぞなき

源行宗朝臣
つらかりし心ならひに逢ひ見てもなほ夢かとぞうたがはれける

藤原顕輔朝臣
年ふれど人もすさへぬ我が恋や朽木の杣の谷の埋もれ木

よみ人しらず
いかにせむ數ならぬ身にしたがはでつつむ袖より落つる涙を

相模
あらかりし風ののちより絶えにしは蜘蛛手にすがく糸にやあるらむ

橘為義朝臣
君まつと山の端いでて山の端に入るまで月をながめつるかな

源頼光朝臣
なかなかにいひもはなたで信濃なる木曽路の橋にかけたるやなぞ

相模
菖蒲にもあらぬ真菰をひきかけしかりのよどのの忘られぬかな

橘季通
なぞもかくこひぢに立ちて菖蒲草あまりながびくさつきなるらむ