和歌と俳句

後藤夜半

立去るや落し流るる水に沿ひ

釣人や笠の陰りの秋の風

秋の夜や水に音たて舟住居

揚舟の中にも月のひとむしろ

お会式の飾り桜に夜なべ尼

月魄にけぶりそむなり天の川

魂棚のくさぐさ見ゆれ路地涼み

むらさきに変りし蓮や魂祭

こしらへのもなかの舞子魂まつり

はなびらの缺けて久しき野菊かな

ひらきたる秋の扇の花鳥かな

がちやがちやの見えて鳴きゐる荷を下す

燈籠に仕ふる沙彌の目鼻かな

燈籠のおのづからなる長尾かな

草市にこゞめるひとの影法師

草市の立ちたるよべの塵すこし

閻王のほとりの障子替へてあり

秋晴れやむらさきしたる唐辛子

老の掌をひらけばありし木の実かな

拾ひ去る人のあとなる木の実かな