曇り日の蜂来て鳴らす障子かな
蜂一つ藤の落花にあゆみ居り
春泥や障子の中の梭の音
武蔵野のふるき並木の種物屋
燕縫ふ桑のくゝりは尚しあり
門田なる畦を焼く火はゐつゝ見む
春雪は枯萱しげみ萱に置く
桑の芽や鶸は黄いろき尾羽をふる
花ふゝむ木瓜にひかりて雨ほそし
藤たれてなほ炭竃はけむりあぐ
海の日の岨のさくらをひらかしむ
海照ると芽ふきたらずや雑木山
かぎろへばあはれや人は山を越ゆ
かぎろへば山彦よびつ谷ゆける
萱山はのこれる穂にし春の風
東風の波舳に富士を沈めつゝ
春の潮富士のとがりは鋭くあれど
櫟生の芽立ちかゞやき麦伸びぬ
機屋の戸ふかく暗きに花杏
花杏新芽立ち添ふうすみどり
四十雀松はすがしき芽を伸ぶる
瀬を照れば日はしろかりし濃山吹
杏咲く夕戸おろせり梭止みぬ
新芽のぶ雑木は夜の香を放つ