安達太良は巨き山ぞも雪の前
山枯るる音は芦辺に時かさず
朝濡れて枯にためらふ山毛欅林
鰤一尾瀕死百尾の回遊に
漢ひとり渚をゆけり冬の雨
石蕗に雨窯場の障子ましろなり
枯葉飛びなまじに小さき墓残る
寒林に生きものの香の我あゆむ
寒林に日の舂くと衿を立つ
寒の園誰も居ずして何処かに居
嶽雪の遙かとなれば宙に浮く
寒鮒の血まみれ跳ねて雪の上
寒鮒の息をひそめて量られゐ
把手赤きスコップ載せて雪のバス
山茶花や罅こまやかに相馬焼
海潮音わけて小春の潮の渦
小春日の苑の広さに際歩む
小六月籠も熊手も松の下
室生川声にせせらぐ芦の枯
賜はれる小春天女の宝珠より
天女にて妻にて霜葉なべて濃し
我が息の我に聞こえてふく木の葉
山城の石佛も亦霙れゐむ