外山なるまさ木のかづら色づけば吉野の奥の冬ぞ知らるる
冬きてぞ訪ふべかりけるみやまべは柴をる道も霰たましく
炭竃の烟ばかりをひとめにて初雪ふりぬ大原の里
雪ふかき山の端いづる冬の月こころ言葉も及ばざりけり
亀山や大内山を見渡せば二尾にみちぬ豊の雪かも
嬉しくぞ尋ねとぶなる友千鳥おいのねざめの有明の空
夜を残す寂しきやどは埋火のあたりばかりぞ頼みなりける
蘆鴨の入江の床はこほりとぢ羽がひの霜は拂ひかぬらむ
雪のうちに佛の御名をとなふれば聴く人もみな罪ぞ消えぬる
船路より行くとも知らば年の暮れ松浦の山に袖もふらまし
恋衣いかに染めける色なれば思へばやがてうつる心ぞ
さしも草さしもしのびぬ仲ならば思ひありともいはましものを
斑鳩のよるかの池のよるべにもいひだにとほせ思ふ心を
かくしもは契りあればぞ思ふらむただ重ねてよ鴛の毛衣
ひとりねは馴れにし黄楊の枕さへ交はす今宵はあはれなりけり
契りあへず明けゆく床に更に寝て帰る別れを夢になさばや
枕だに知るなるものを交はしおきてなぞしも人のつれなかるらむ
君をのみ立ちてもゐても思ふかな狩ぢの池の鳥ならなくに
我はこれ岩うつ磯の波なれやつれなき恋に砕けのみする
うらみても何にかはせむ逢はでのみこしのみづうみみるめなければ