書院より見るや満天星の花の雨
簷しづく寂びぬ満天星の花の雨
大和なる夢殿にきたり春日暮る
春の日の甍にのこり階になし
軋り鳴る暮春の扉なり押しひらく
春惜むおのが跫音をおそれつつ
畏れ見る遅日金色の御佛を
遅日光御手たをやかにうけたまふ
香けぶり春咲かせたる菊にほふ
菊のいろ秋よりふかく春咲きぬ
行春の菊を御佛もめでたまふ
田園都市静かなる日の祭来ぬ
神輿ゆき雑草の原に花白き
渡御すぎて若葉の槻の高き門
神輿振雑草の原へなだれ入る
神輿振電車警笛を鳴らしすぐ
琵琶の湖の入江しづかに田を植うる
葭簾数奇屋好みの塵もなし
簷簾ひとつの額の花ふるる
葭さやぎすなはち鳴けり葭すずめ
鳰の子が親の水輪の中にゐる
桑あをし駅に出征の旆ぞ立つ
ますらをの父か夏足袋真白なる
瀬をはやみ船夏山につきあたる
遊船の日覆を打ちて巌すぎぬ