和歌と俳句

水原秋櫻子

書院より見るや満天星の花の雨

簷しづく寂びぬ満天星の花の雨

大和なる夢殿にきたり春日暮る

春の日の甍にのこり階になし

軋り鳴る暮春の扉なり押しひらく

春惜むおのが跫音をおそれつつ

畏れ見る遅日金色の御佛を

遅日光御手たをやかにうけたまふ

香けぶり春咲かせたる菊にほふ

菊のいろ秋よりふかく春咲きぬ

行春の菊を御佛もめでたまふ

田園都市静かなる日の祭来ぬ

神輿ゆき雑草の原に花白き

渡御すぎて若葉の槻の高き門

神輿振雑草の原へなだれ入る

神輿振電車警笛を鳴らしすぐ

琵琶の湖の入江しづかに田を植うる

葭簾数奇屋好みの塵もなし

簷簾ひとつの額の花ふるる

葭さやぎすなはち鳴けり葭すずめ

鳰の子が親の水輪の中にゐる

桑あをし駅に出征の旆ぞ立つ

ますらをの父か夏足袋真白なる

瀬をはやみ船夏山につきあたる

遊船の日覆を打ちて巌すぎぬ