和歌と俳句

軽部烏頭子

1 2 3 4 5 6 7 8

大かたは水に散るなる柳かな

花すゝき添ひたる松をしのぐあり

稲刈るやしりへに遊ぶかちがらす

鳴子守用なき鳴子ひきにけり

生きてゐる蚰蜒なれや馳くるなり

秋天や連理の並樹こゝに絶ゆ

初雁のなぎれなかりし夜の雨

片頬なる日のやはらかに晩稲刈

伸びてきし落穂拾ひの影法師

畦を行く犬あり落穂拾ひあり

たひらかに落ちて一葉や草の上

猟人のわしれるあとに石叩

返り花まばゆき方にありにけり

いくかたぎ箸のたのしき柚味噌かな

たちよりて脱ぐ沓あさき焚火かな

砧うつほとりにあるはとなりの子

冬構かなしき蓆つられたり

唐辛子斎へる軒の氷柱かな

知らぬ人に報謝の焚火つなぎけり

糸柳垂れて町並つくるかな

自らもたうべてありぬ海鼠売

海鼠売甕をかづきて移りけり

月待つと上元の人とく出づる

いたゞきも端山も焚火あげにけり

たゝなはる嶺々のあげたる焚火かな

登りきて枯れたる萩をかたしきぬ

上元の月はまだしき八重霞

上元の月は暮るゝを待たずして

夜の嶺に焚火の名残仰がるゝ

下萌ゆとかんばせよする二人かな

赤楊の朱けなる花を交へたり

志賀の湖曇れる畦を塗りにける

日あたればわびしきかなや杜若

川蝉か春の鵆かないて居り

はためくをやめてあゆみぬ灯取虫

投げ苗をかはしてくぐるつばくらめ

夕立とたゝかふさまの浮葉かな

夕立のはれゆく浮葉うかみけり

降りいでし草より松へ夏の蝶

早乙女のひとかたまりに下りたちぬ

街道の真ん中に落つ蛍かな

蛍火の葉表となりきたりけり

蛍火のすくへる草になかりけり

蛍草蓼にまじりてかなしけれ

こゝにきて千鳥の痕の絶えにけり

冷やかにもの音もなき飼屋かな

田を行きて畑をゆくなる蛍かな

秋声にそばたつ耳のおのづから

おもむろにあゆみ入りたる栗林

この萩にいくたびめぐり来りけん

枯真菰瑞の真菰をつゞりけり