高浜虚子
海苔粗朶にゆたのたゆたの小舟かな
山門も無くて梅林覺園寺
墓参して寿福禅寺の梅にあり
針山も見えて尼寺梅の花
大いなるうなりに乗りて和布刈舟
いと長き和布刈の棹を使ひけり
岩伝ひ下り来る人や春の水
春水の石にもつれつほどけつつ
春水に両手ひろげて愉快なり
行きあひし尼に会釈の彼岸道
久々に家を出づれば春の泥
もの芽出る籬の外には電車行く
尼寺の縁側近きもの芽かな
枯蔓をかぶりし儘に木の芽かな
目白来て躍りとまるや風椿
造化又赤を好むや赤椿
葉のかげににじみそめたる椿かな
庭散歩椿に向ひまた背き
春蘭を鍬に載せ提げ戻り來る
春蘭の曾ての山の日を恋ひて