和歌と俳句

高浜虚子

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緑竹に蒼松にある冬日かな

山並の低きところに冬日兀

この冬を籠りて稿を起こさんと

古き家によき絵かゝりて冬籠

忘れゐし事にうろたへ冬籠

欠伸して頭転換冬籠

無駄な日と思ふ日もあり冬籠

冬枯の庭を壺中の天地とも

暖き冬日あり甘き空気あり

草枯礎石百官卿相を

贈り来し写真見てをる炬燵かな

わが眉の白きに燃ゆる冬日かな

炭斗のふくべの形見飽きたり

炭斗のありし所になかりけり

雨晴れて枯木潤ふけしきかな

炬燵あり城に籠るが如くなり

に腰そのまゝ日向ぼこりかな

我が仕事炬燵の上に移りたる

歩み去る年を追ふかに庭散歩

眠れねばいろいろの智慧夜半の冬

短日のきしむ雨戸を引きにけり

寒むければ防空頭巾著て書見

眠れねば足の先き冷えまさりつゝ

硝子戸に頬すりつけて冬日恋ふ

しぐれつゝ梢の柿のまだ残り

冬枯にわれは佇み人は行く

昃りし障子四枚や時雨来し

三汀の墓は質素や水仙花