鉄柵の中コスモス咲きみちて揺る
雨落ちんとす釣鐘草はうなだれり
銀杏またく散りしける地蔵たふとけれ
風にちる落葉の中より湧き立ちし鳥
しぐるる夜の一人なり爪剪る一人なり
ひとすぢのひかり雲をつらぬき芒そよがず
凩のなか物たたく音の暮れゆけり
小さき家に人入りて枯野たそがれぬ
あてもなく踏み歩く草はみな枯れたり
砕かるる炭のこぼれを這ふ日影
窓はたかく鎖されて水仙咲けり
風を聞きをり水仙の香ほのかなる
家を出づれば冬木しんしんとならびたり
凩に吹かれつつ光る星なりし
雪かぎりなしぬかづけば雪ふりしきる
雪あかりほのかにも浪の音すなり
燕とびかふ空しみじみと家出かな
長き塀にそひつつ花菜田へいでたり
木漏れ日のつめたきにたまる落花あり
心ややにおちつけば遠山霞かな
光と影ともつれて蝶々死んでをり
汽車すぎしあと薔薇がまぶしく咲いてゐたり
小供の声をちこちに葉桜照れり
ささやかな店をひらきぬ桐青し
兵隊おごそかに過ぎゆきて若葉影あり
いちにちのつかれ仰げば若葉したたりぬ
扉うごけり合歓の花垂れたり
蛙さびしみわが行く道のはてもなし
蛙蛙独りぼつちの子と我れと
ふと覚めて耳澄ましたり遠雷す
朝日まぶし走り来て梧桐をめぐる児ら
けふの日も事なかりけり蝉暑し
桐並木おだやかに昇る月かな
桐の葉垂れつ沈みゆく街あかり
桐一葉一葉一葉の空仰ぎけり
蜻蛉二つ漂へる空の晴れてゆく
水を挟みて飛び競ふ蝗の真昼
稲は穂に穂を重ねたれ祭太鼓鳴る
空の深さ櫨の実摘む児のうららかさ
梅もどきひそかなる実のこぼれけり
雪ちらちら人走る方へ日落ちたり
一路白しま空の月の冴ゆるかな
鴉しきりに啼き炭火きえけり
死人そのままに砂のかがやき南無阿弥陀仏
朝顔のゆらぎかすかにも人の足音す
海鳴きこゆ朝顔の咲きけるよ
淋さ堪へがたし街ゆけば街の埃かな
霧のなか旭のなかかがやくはお城