和歌と俳句

種田山頭火

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雑草よこだはりなく私も生きてゐる

しぐるゝや耕すやだまつて一人

窓が人がみんなうごいてさようなら

家があれば菰あむ音のあたゝかな日ざし

雑草ぽかぽかせなかの太陽

日向ぬくぬくと鶏をみしつてゐる

夕日のお地蔵さまの目鼻はつきり

水に夕日のゆらめくかげは

芽麦あたゝかなここにも家が建つ

麦田うつ背の子が泣けば泣くままに

暮れてひつそり雪あかり月あかり

月がうらへかたむけば竹のかげ

雪ふる食べる物もらうてもどる

梅がさかりで入営旗へんぽんとしてひつそりとして

わかれてひとり、空のどこかに冷たい眼

雪もよひ雪となつた変電所の直角形

おもひでがそれからそれへ晩酌一本

雪あかりのしづけさの誰もこないでよろしい

わかれても遠いおもかげが冴えかへる月あかり

あの人も死んださうな、ふるさとの寒空

あすは入営の挨拶してまはる椿が赤い

おわかれの声張りあげてうたふ寒空

ひつそり暮らせばみそさざい

んけた歯を投げたところが冬草

明けてくる物みな澄んで時計ちくたく

はなれたかげはをとことをなごの寒い月あかり

けさの雪へ最初の足あとつけて郵便やさん

とぼとぼもどる凩のみちがまつすぐ

ここに家してお正月の南天あかし

犬もゐなくなつた夫婦ぎりの冬夜のラヂオ

しぐれつつうつくしい草が身のまはり

雪のしたゝる水くんできてけふのお粥

春の雪ふる草のいよいよしづか

わらや雪とくる音のいちにち

寒空のとゞろけばとほくより飛行機

爆音、まつしぐらに凩をついて一機

飛行機がとんできていつて冴えかへる空

けふもよひ日の、こごめ餅こんがりふくれた

かあとなけばかあとこたへて小春日のからすども

夜あけの風のしづもればつもつてゐる雪

見あげて飛行機のゆくへの見えなくなるまで

たたへて凍つてゐる雲かげ

あたたかなれば木かげ人かげ

枯草へ煙のかげの濃くうすく

わかいめをとでならんでできる麦ふむ仕事

竹の葉のいちはやく音たてて霰

木枯は鳴りつのる変電所の直角線

しんみりする日の、草のかげ

こゝろたのしくそこらで餅をつく音も

更けてひとり焼く餅の音たててはふくれる

みぞれする草屋根のしたしさは

霜晴れの、むくむくと土をむぐらもち

ふるつくふうふういつまでうたふ

ほつと夕日のとゞくところで赤い草の実

高声は山ゆきすがたの着ぶくれてゐる

寒い朝の、小鳥が食べる実が赤い

曲ると近道は墓場で冷たい風

寒い裏から流れでる水のちりあくた

南無地蔵尊冴えかへる星をいたゞきたまふ

恋猫が、火の番が、それから夜あけの葉が鳴る

雪でもふりさうな、山の鴉も寒さうな声で