和歌と俳句

河東碧梧桐

ゆうべねむれず子に朝の見せ

君を待たしたよちる中をあるく

入学した子の能弁をきいてをり

二人で物足らぬ三人になつて白魚

お前と酒を飲む卒業の子の話

雨戸あけたので目がさめ木瓜咲き

つゝじの白ありたけの金をはらひぬ

砂まみれの桜鯛一々に鉤を打たれた

淋しかつた古里の海の春風を渡る

古里人に逆つて我よ菜の花

静かに暮すやうに梨畑花咲く

木瓜が活けてある草臥を口にす

弟よ日給のおあしはお前のものであつて夜桜

姉の朝起きがつゞいて上野の小鳥の木の芽空

姉は茅花をむしつてまるめては捨てる

子を亡くした便りが余に落著いてかけて青麦

忘れたいことの又たあたふたと菜の花がさく

散り残つた梨の花びらの梨なる白さ

一鉢買つたチユーリツプが流しもと

旧正月しに来て一うねの苣畑

素足で防風根でさげて来た

家明け放してゐる藪高い椿の白

桜餅が竹皮のまゝ解かずにある

蓬包みをさげてゐる夕靄の遠の松原

菜の花を活けた机おしやつて子を抱きとる