高浜虚子
春寒や陶々亭の赤火鉢
海苔掻の女や波を逃げもして
粗末なる軒端の梅も咲きにけり
好もしく低き机や雛の間
春めくと思ひつつ執る事務多忙
油の目大きく二つ春の水
濡れてゆく女や僧や春の雨
風折の烏帽子の如きもの芽あり
失せてゆく目刺のにがみ酒ふくむ
人々は皆芝に腰たんぽぽ黄
たんぽぽの黄が目に残り障子に黄
しづしづとクローバを踏み茶を運ぶ
連翹の一枝円を描きたり
あやまつてしどみの花を踏むまじく
騒人にひたと閉して花の寺
行き当り行き当り行く花の客
遠足も今は駆足池の端
美しき眉をひそめて朝寝かな
春惜しむベンチがあれば腰おろし