和歌と俳句

高浜虚子

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寒鯉の一擲したる力かな

都鳥とんで一字を畫きけり

冬空に大樹の梢朽ちてなし

香煙にくすぶつてゐる冬日かな

いと低き土塀わたりぬ冬木中

初時雨その時世塵無かりけり

両脚を伝ひて寒さ這ひ上る

遠足の列くねり行く大枯木

一門の睦み集ひて桃青忌

切干もあらば供へよ翁の忌

滝風は木々の落葉近寄せず

廻廊を登るにつれて時雨冷え

川にそひ行くまま草の枯るるまま

北国のしぐるる汽車の混み合ひて

敦賀まで送り送られ時雨降る

無名庵に冬籠せし心はも

湖の寒さを知りぬ翁の忌

笠置路に俤描く桃青忌

ここに来てまみえし思ひ翁の忌

冬空を見ず衆生を視大仏

ただ中にある思ひなり冬日和

落葉吹く風に帚をとどめ見る

人を見る目細く日向ぼこりかな

干笊の動いてゐるは三十三才

うかとして何か見てをり年の暮

年の暮らしき境内通り抜け

枯木皆憐れみ合ひて立ちにけり

振り向かず返事もせずにおでん食ふ

甘藷焼けてゐる藁の火の美しく

起き直り起き直らんと菊枯るる

都鳥とんで一字を画きけり

川の面にこころ遊びて都鳥