和歌と俳句

種田山頭火

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野辺のおくりのすすきはよろしいかな

南無阿弥陀仏もう鴉はきてゐる

墓石に帽子をのせ南無阿弥陀仏

これが一生のをはりの、鴉と子供

人を葬るところの梅の花

墓場へみちびくみちの落葉鳴らしゆく

落ちてそのまま芽生えた枇杷に枇杷

ぼんやりをればのぞいては啼くはひたたき

さびしさのはてのみちは藪椿

風に木の葉さわがしいさうろうとしてゆく

夜ふけの餅のうまさがこんがりふくれ

枯れたすすきに日が照る誰かこないかな

蕗の芽もあんたのこころ

あんたのこころがひろがつて蕗の葉

遠山の雪ひかる別れなければならない

草は枯れて犬はただほえて

雪どけのぬかるみのあすはおわかれ

朝から降つたり照つたり大きな胃袋

かみしめる餅のうまさの夜のふかさの

なにもかも雑炊としてあたたかく

小鳥も人もほがらかな雲のいろ

こころあらためて水くみあげてのむ

ほつかりめざめて春めいた雨の柿の木

ぽつとり椿が雨はれたぬかるみ

風の中の変電所は午後三時

風ふく西日の、掘りつづけてゐる泥蓮

風をあるいてきて新酒いつぱい

寺があつて墓があつて梅の花

風が出てきて冬が逃げる雲の一ひら二ひら

水底しめやかな岩がある雲のふかいかげ

ちかみちは春めく林の枯枝をひらうてもどる

夜あけの葉が鳴る風がはいつてくる

食べもの食べつくし旅へでる春霜

これから旅も春風のゆけるところまで

春がきた水音のそれからそれへあるく

梅もどきが赤くて機嫌のよい頬白目白

ここからは長門の国の松葉ふる

誰もゐない筧の水のあふれる落葉

岩を白う岩から寒い水は走る

ここで泊ろう どの家も餅がほしてある

春が来たぞな 更けてレコードも をんなの肉声

灯つてまたたいて あれはをなごや

春寒い をなごやのをんなが 一銭持つて出てくれた