和歌と俳句

種田山頭火

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こんな水にも春の金魚が遊んでゐる

かすんでけぶつて山の街にも日の丸へんぽん

今日の乞ふことはやすくておいしい汁粉屋の角まで

おぢいさんの髯のながさをおもちやにして日向ぼつこ

食べものうつくしうならべ煤がふる

白い煙が黒い煙が煙突に煙突

曇れば寒いボタ山ふたつ

逢うてうれしくボタ山の月がある

けさはおわかれの太陽がボタ山のむかうから

よぼよぼのからだとなり水をさかのぼる

驢馬にひかせてゆくよ春風

枯草ふかく水をわたり、そしてあるく

また逢へようボタ山の月が晴れてきた

あされば何かあるらしい鶏は鶏どち

焼芋やけます紙芝居はじまります

旅のつかれのほつかりと夕月

枯草の日向見つけて昨日の握飯

病めばをかしな夢をみた夜明けの風が吹きだした

こんなにつかれて日照雨ふる

うらからはいればふきのとう

ほろにがいのも春くさいふきのとうですね

誰も来ない月はさせどもふくらうなけど

利かなくなつた手は投げだしておく日向

げそりと暮れて年とつた

鳴きつづけて豚も寒い日

何やら来て何やら食べる夜のながいこと

もう一杯、柄杓どの

月がぱちぱちお風呂がわいた

夜ふかうして白湯のあまさよ

乞ひあるく道がつづいて春めいてきた

風が明けてくる梅は満開

いつもつながれてほえる犬へ春の雪

待つても来ない木の葉がさわがしいゆふべとなつた

ちかみちは夕ざれの落葉ふめば鳴る

さむいゆふべで、もどるほかないわたくしで

犬がほえる鳥のなく草は枯れてゐる

水底ふかくも暮れのこる木の枯れてゐる

酔ひざめの春の霜

藪かげほつと水仙が咲いてゐるのも

みんな酔うてシクラメンの赤いの白いの

風がふくひとりゆく山に入るみちで

すげなくかへしたが、うしろすがたが、春の雪ふる

洗つても年とつた手のよごれ

心あらためて土を掘る

雪あした、すこしおくれて郵便やさん最初の足跡つけて来た

死ねる薬はふところにある日向ぼつこ

水のんで寝てをれば鴉なく

売れない植木の八ツ手の花

寒い雨がやぶれた心臓の音