和歌と俳句

原 石鼎

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ほのと積めば粉雪霰も春のもの

落椿朽ち流るるも花の数

一枝の椿を見むと故郷に

月影に春の霰のたまり居り

月影に春の霰を踏もうとす

母癒えよと春の霰の月に歩す

春雪に華やかなりし夜なりけり

紅椿白玉椿園の奥

故郷のすすしの蔭や春の雪

鶴冠の上下す見ゆれ玉椿

白玉や蕊のなよびもおそ椿

鶴の鼻にふとひげ見ゆれ玉椿

桃椿なべて蕾は春深し

本堂の柱に映る木の芽かな

本堂の太しき柱木の芽時

青梅をくぐりくぐりて下くらし

咲きのこる椿一花や平林寺

何やらの花も絮も降る平林寺

梅搗ちて草木土とにほふかな

霞みけり日は降りながら庭の面

摘みて来て白菫ぞとわが掌へ

風すぢのままの茅花に夕日かな

夕なべに茅花流しはなごみがて

大風をしづめの雨も彌生かな

春宵や人の屋根さへ皆恋し

たへがたう心ふと濃し春の宵