和歌と俳句

原 石鼎

29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40

蓋しやる盥の鯉や冴え返る

雨まじる雪と添ひちる梅のあり

鶯の初音ぞわたり八重椿

縫ふものに尺八の袋や春の雪

鯉を画き水をゑがくや春の雪

滝のひびをとくとくとして春の水

春の水岸へ岸へと夕かな

翼たためば美しかりし鳥も往ぬ

ほろほろと籬に顔見せ鳥帰る

乾田の上に羽ばたき鶴帰る

庵木の芽くぐりし鶫も帰りけり

子と親となほけじめして鳥帰る

桃林に迷へる鳥も帰りけり

ぐわんと譜すればぐわんとピアノや春の雨

のぼらずて見る頂や春の雨

春雨に草をこぼれし花片かな

春雨の地をながれ出る花片あり

うたた寝の頬にただむきや春の雨

田代掻く女どもやな寒からめ

幻を過ぐるやTango木の芽雨

暁雨に木の芽鶯かかはらず

赤き苞添うて芽はなつ楓かな

草芽見入るや木の芽の影をふりかぶり

一山の木の芽かはける夕かな