和歌と俳句

原 石鼎

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行春のつと花吹雪夕づけて

蛙の子日のめぐみ得て影と遊ぶ

松葉藻に影あきらかよ蝌蚪二つ

水泡吐いてくるりと沈む蝌蚪をかし

たそがれの水に見え居り蝌蚪の陣

風ややにすさぶ野に闌け桜草

嬉々として野に妻等ある桜草

ひこばえを大地の中にむしりけり

ひこばえをむしり遊べる子供かな

山腹をすれ来る日ありひこばゆる

両側に相向きあうて茶摘みかな

桜草たけて若蘆ばかりかな

総緑の野と大空と若蘆と

わか蘆のかばかり陸に生ふものか

若蘆は茎下太に柔らげに

大空を柳絮とおぼし降るは降るは

樫落葉かばかり溜めて風やみぬ

藤の房水辺に垂れて奥くらし

藤の花太蔓巌の郤を匐へり

屋根瓦大方葺かれ藤の花

藤の房廂と棚の二段より

藤の下へ降り来し鳩の羽の色

藤棚をとりめぐらして座禅の間

瓔珞の藤に結跏の緋座布団

藤棚やなほ築山の奥に藤

惜春の眼に蝙蝠のはばたきよ

たそがれて人なき峰や春を惜む

行春の煤の自在も串さしも

行春の古炉へまでも花吹雪