原 石鼎
加茂川の紺の水辺の日傘かな
玉虫のわづかひろげし翅かな
玉虫の天地の色をあつめけり
玉虫に空の松影移りけり
玉虫を包みし綿や紙の上
滝水の剰り水うく朱盃かな
滝壺をあふれつらなる水沫かな
風鈴や畑づかれのあふむけに
風鈴の廂の外や茄子畑
白粉の花に雨ふる旱かな
賤が家に星祭るさへ旱かな
睡蓮に浮巣やあらん澳の波
夏萩と申されてそれとしりて見る
小雨中花のとぼしき夏の萩
夏露や稲へとびこむ草かはづ
宇治橋の日盛時をわたりけり
宇治橋をわたり来て蝉の聞えけり
宇治橋の金具にひかれ絽の羽織
宇治橋の手摺によりて吹かるる絽
宇治川へ釣瓶落しし人涼し
吊橋を負はれ渡りぬ小夕立