和歌と俳句

原 石鼎

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南風や一輪それて紅き薔薇

南風のかざすぢの家の簾かな

一山の南風の裏葉に夕日かな

黄の葉にもでで虫ついて梧桐かな

蟷螂のどこまでのぼる梧桐かな

幹も枝も葉もあをあをと梧桐かな

鳶やがてひだりへ流れ青嵐

空ふかみうるみうるほひ青嵐

雀枝に来やうしろより青嵐

落ち毛虫いそぎにぐるよ青嵐

石を匐ふ毛虫美事や青嵐

薫風の葉とは重なり重ならず

梅雨の星蜘蛛さがり蚊のかよふ軒

魂のごと来し紋揚羽竹落葉

旋り散る葉の白々と竹落葉

夏帽やあらゆる顔に濃き影す

のけざまに寝れば真空を夏烏

車蝶簷へのがれて梅雨空へ

ほのぼのと日出づるまへの雲の峰

あとしざりしつつすすみ居り夏の雲

ひとよさに星振りかはり月涼し

篠の葉の長く干そるも夏夕

どの幹もどの枝も日の盛りかな