和歌と俳句

原 石鼎

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緑蔭や歯朶の若葉の奥の石

緑蔭の肌に触るる微風かな

大地這ふ西日に赤し畑苺

若薄日に日に育ち垂れ初むる

籐椅子に懸けて乾し居り夏の帯

雷の昨夜の心に夜明けけり

日焼して若き人来ぬ夏座敷

夕空や樹を離れ飛ぶ金亀子

上弦の昼月夏の相模灘

八専の雨にうたるる金魚かな

日盛りの日陰暗さや松の幹

午寝覚めなほ帷子の干してあり

妻は今日蕃茄子の畑を耕せり

哀げに覚束なくも鳴けり

吹く風の暑き真昼や蝉時雨

黄昏れてなほ蝉時雨つづきけり

厨にて笑ひ声する蝉時雨

夕晴れて鏡の如し蝉時雨

赤ん蜂夏日に見れば黄なるかな

白粥の朝餉に夏のものばかり