和歌と俳句

原 石鼎

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むせび啼く虫もありしに神無月

烏二羽西日へかへる小春かな

飛行機の音瑯瑯と小春かな

富士の真空ゆ入る日輪に時雨月

初霜のとけて旭蔽ふ煙霧かな

平明にきく鶏鳴や十二月

星見れば星なつかしし十二月

コスモスの花はあれども冬の空

コスモスの花枯れながら冬の空

入日をろがむ窓辺に冬の蠅一つ

黒雲はみな雪雲や冬の晴

月ながら冬霧わいて夜もすがら

廊下にも一夜たちこめ冬の霧

たわたわと冬の鴉のつばさかな

冬くもる藪に孟宗垂れゆるる

目つむれば日輪見ゆれ夜半の冬

いちさきに孟宗ゆれて降る

しんしんと降る雪見入りわがさだめ

しんしんと降る雪を見て夕かな

傘につみ土につむ雪の夕ながめ

芝よりも土に雪つむ夕かな

初雪のこの夜微震を感じけり

小夜にふと感ぜし地震が雪おこし

真東に金の月出てかみなづき

群わきてまた松を越し冬雀

夜半の星ところかへつつ年の暮

大き年かは霜をつちかひ夜半の霧

窓ぎはへこぼるる月の夜半の冬

真つ天の月へ星ちり明くる冬

初雪は牡丹雪にて夕かな

雪の富士へわたる満月夜もすがら

大雪の晴れ間の富士を高き駅に

すいすいと降る雪の中舞ふ雪よ

裏富士や駒天かける氷色

つかの間の日を雲あひに年のくれ

静かさは月のひかりと年のくれ

朝々の初日をろがみ年のくれ

行く年の月ひるのごとてりにけり

大年の日輪月のごとき日も

大年のひるさがりより零など

神霊にこもるここのこの間に風炉の名残

神風炉に凝つて火の子の一つちる

伽羅燻べて濃茶はじまりちる火の子

神無月畑の真中に出来し道

青帝暁を青女に霜を乞はれけり

牡丹雪青女の袖の裾とひれふり

青帝起つて日に六の花をはなちけり

大年の蒼海ちかく住みにけり

黄銅に光れる柑子むきにけり

黄銅に皮の光れる柑子かな