和歌と俳句

長谷川素逝

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土の上のひかりをまとひ耕せる

木蓮の芽に空を漉す日のひかり

たら芽ぶく枯れたるものの日の中に

たらの芽に山の日のなほよそよそし

朴の芽にまぶしとあふぐ日にはあらず

うぐひすのこゑをつつみてくもるなり

牡丹の芽の晴曇のふとりつつ

春となる雨土くれに上に降る

ほぐれつつ牡丹の芽の雨低し

あたたかき雨や芽麦に消えて降る

降りつづきたるしやくやくの芽の日なた

麦の芽にきのふの雨の土のいろ

白梅の花と莟と莟がち

大小の梅の莟の白嵌まり

白梅の莟と花といりみだれ

白梅のひかりの中に枝の影

梅にほふ日輪暈の中にあり

ただよへる梅のにほじの土の上

なほ暮るる夕くらがりの梅白さ

空の日へ枝芽ぶかんとして微塵

大木の芽ぶかんとするしづかなり

かかる小さきもののいのちの芽のいとし

ふつふつと天日に沸く銀杏の芽

しろがねの木の芽ぐもりの日を秘めて

木の芽空日輪ひとつくもるのみ

橡芽ぶく曇りたる日を枝に裹み

木の芽空くもりたる日とあるばかり

村は寝て木の芽ぐもりの月の暈

紅梅のつぼみいよいよけはしけれ

紅梅の花のかたまりづつの色

紅梅の花を没せし闇さかん

木蓮のつぼみのひかり立ちそろふ

もくれんの花のひかりの咲きあふれ

あたたかくたんぽぽの花茎の上

たんぽぽの一座一座の花の昼

おのがじし辛夷の花の雨あがる

朝風の辛夷のひかり咲きめくれ

落ち敷ける椿の花の上の冥さ

落椿あかりの罩むる土の上

さんしゆゆの花のこまかさ相ふれず

ひとすぢの垂れしあはさの柳の芽

門前の春宵ひたと暗くなる

わかれたる人をつつみて春の闇

おぼろ夜の翳簷下にうづたかく

木々の芽ぶく夜のくらさにとりまかれ

春の夜のこころに雨の音はあり

目つむれば春の夜の闇つつむなり

雨の音春夜のこころひとりにす

春の夜のなれをつつみて雨の音

春の夜のただあるゆゑのなれ優し

枝の影もみあふ風の花の中

咲きみちし花のあひだの枝に鴉

ひとひらの落花のおける水輪ほと

水の上の落花をひかりふちどれる