和歌と俳句

高浜虚子

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宿借さぬ蠶の村や行きすぎし

逡巡として繭ごもらざる蠶かな

蠶飼ふ麓の村や托鉢す

雨戸たてて遠くなりたるかな

間道の多き辺へ出でたりし

年々の見物顔や薪能

薪能もつとも老いし脇師かな

や文字も知らずに歌心

二日灸玉の膚をけがしけり

二日灸旅する足をいたはりぬ

富士浅間二日灸の煙かな

浄瑠璃を讀んで聞かせぬ二日灸

宿直して暁寒し春の雪

摘草に裏戸を出でてつれ立ちぬ

物売りの翁の髷や壬生念仏

春寒き火鉢によるや歌語り

藤壺の猫梨壺に通ひけり

春の夜や机の上の肱まくら

美しき人や蠶飼の玉襷

老若や彼岸詣りの渡し船

春雨や降りこめられし女客

春雨やかけ竝べたる花衣

膚脱いで髪すく庭や木瓜の花

灯ともしに門の行燈や春の宵

大江山花に戻るや小盗人