和歌と俳句

高浜虚子

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鎌倉のここ焦したる野焼かな

春寒や砂より出でし松の幹

年々に見古るす家やの道

この谷のの遅速を独り占む

先人も惜しみし命二日灸

大寺を包みてわめく木の芽かな

菊根分剣気つつみて背丸し

この後の古墳の月日椿かな

この谷の遅日におはす庵主かな

一つ根に離れ浮く葉や春の水

庖厨に草餅あり京に移住の議

山居杉に親しめば連翹野に恋し

杉大樹春の曙に立てりけり

僧一人交りて春の宵集ひ

よき調度枕上なり夜半の春

春の夜を更かし帰りてさす戸かな

暮れて人船に乗る別離かな

舟岸につけばに星一つ

花暮れて夜のもとゐとなりにけり

濡縁にいづくとも無き落花かな

提灯に落花の風の見ゆるかな

春風や闘志いだきて丘に立つ

山吹に深山の雲のかかるなり

山吹や人に怖ぢざる渓の魚