和歌と俳句

高浜虚子

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老猫の恋のまとゐに居りにけり

古雛を今めかしくぞ飾りける

木々の芽のわれに迫るや法の山

うなり落つ蜂や大地を怒り這ふ

ものの芽のあらはれ出でし大事かな

春山の名もをかしさや鷹ケ峰

見るうちにものあらはれ来涅槃像

春雨や忽ち曇る鷹ヶ峰

もたし置く春雨傘や茶室の戸

斯く翳す春雨傘か昔人

春雨や少し水ます紙屋川

春雨の傘さしつれて金閣寺

くぬぎはらささやく如く木の芽かな

うち笑める老を助けて青き踏む

踏青や川を隔てて相笑める

踏青や古き石階あるばかり

装ひて来る村嬢やの水

この庭の遅日の石のいつまでも

暮遅し人ちらばりて相寄らず

啓書記の達磨暗しや花の雨

一片の落花見送る静かな

竹藪を外れて嵐山

静かさや松の花ある龍安寺

花茶屋に隣りて假の交番所

うたたねのさめて日高し櫻人

鹿の峰の紺屋なほあり豆の花

行春や西山の辺の丹波路