院の前雪解の水の走り居る
鶯の声の大きく静かさよ
水に浮く柄杓の上の春の雪
楼門のありて春山聳えたり
草間に光りつづける春の水
宿の名の春雨傘をさしつらね
宿のもの春雨傘を一抱へ
両の掌にすくひてこぼす蝌蚪の水
咲き満ちてこぼるる花もなかりけり
行人の落花の風を顧し
思ひ川渡ればまたも花の雨
白雲の過ぎ行く峰の櫻かな
遅桜なほもたづねて奥の宮
無住寺の扉に耳や春惜む
神主の肴さげたり一の午
色さめし針山並ぶ供養かな
此の村を出でばやと思ふ畦を焼く
紅梅に立ち去り難き一人あり
縄がこひして草萌を待つばかり
すみずみの溝ぶちまでも名草の芽
泥落ちてとけつつ沈む芹の水
桂出て尚餘りある春日かな
裏山の木瓜掘つて来てまだ植ゑず
後手に人渉る春の水
眼つむれば若き我あり春の宵
春宵のもとゐに若き我なりし