和歌と俳句

高浜虚子

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院の前雪解の水の走り居る

の声の大きく静かさよ

水に浮く柄杓の上の春の雪

楼門のありて春山聳えたり

草間に光りつづける春の水

宿の名の春雨傘をさしつらね

宿のもの春雨傘を一抱へ

両の掌にすくひてこぼす蝌蚪の水

咲き満ちてこぼるるもなかりけり

行人の落花の風を顧し

思ひ川渡ればまたも花の雨

白雲の過ぎ行く峰のかな

遅桜なほもたづねて奥の宮

無住寺の扉に耳や春惜む

神主の肴さげたり一の午

色さめし針山並ぶ供養かな

此の村を出でばやと思ふ畦を焼く

紅梅に立ち去り難き一人あり

縄がこひして草萌を待つばかり

すみずみの溝ぶちまでも名草の芽

泥落ちてとけつつ沈むの水

桂出て尚餘りある春日かな

裏山の木瓜掘つて来てまだ植ゑず

後手に人渉る春の水

眼つむれば若き我あり春の宵

春宵のもとゐに若き我なりし