和歌と俳句

高浜虚子

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凍てきびしされども空に冬日

彼の道に黒きはの友ならん

雪積みて傾く納屋の牛吼ゆる

座敷迄炊ぎ煙や春を待つ

枯菊に尚色とうふもの存す

一冬の寒さ凌ぎし借頭巾

老犬の我を嗅ぎ去る枯木中

雪の道草臥れし時杖をとめ

書読むは無為の一つや置炬燵

吹く風は寒くとも暖遅くとも

大根を鷲づかみにし五六本

雪の底落葉乾ける山路かな

船人は時雨見上げてやりすごし

聞き役の炬燵話の一人かな

寒からん山盧の我を訪ふ人は

炬燵出ずもてなす心ありながら

よからずや小諸の宿の炬燵酒

冬籠座右に千枚どほしかな

冬籠心を籠めて手紙書く

冬の日の尚ある力菊残る

浅間今雪雲暗く封じたる

山越えて来たり峠は雪なりし

必ずしも小諸の炬燵悪しからず

句を玉と暖めてをる炬燵かな

片頬に冬日ありつつ裏山へ

ごこやらに急に逃げたる冬日かな

山茶花の花のこぼれに掃きとどむ

枯菊に莚のはしのかかりけり

冬枯の園とはいへど老の松

うせものをこだはり探す日短か

人集ひ来れば暖か冬籠

思ふこと書信に飛ばし冬籠

ニ三子と木の葉散り飛ぶ坂を行く

古城跡の石垣ぬけて枯野かな

地にとまる蝶の翅にも置く

里人はしみるといひぬ凍きびし

凍きびししみると言葉交し行く

雪晴の空に浅間の煙かな