和歌と俳句

久保田万太郎

18 19 20 21 22 23 24 25 26

供養鐘ひねもす花に撞かれけり

塔みゆる道となりたるかな

奉納の幟みえきしかな

つきひぢの内外ののさかりかな

冷えこみのけさもきびしき櫻かな

花疲れおいてきぼりにされにけり

肚からの貧乏性や啄木忌

竹の秋道山科へ入りにけり

著つけ浅黄浅黄は春を惜むいろ

の夜の雛の料理や金田中

東京の雁ゆく空となりにけり

大枯木よりまづ霞みそめにけり

永き日や目に押しあつる蟲めがね

鉛筆を削りためたる日永かな

春の灯の水にしづめり一つづつ

春の灯のまたたき合ひてつきしかな

人の世のかなしきしだれけり

帯に下げし古手拭や花の中

あきらめてしまひし末のかな

花冷えのうどとくわゐの煮ものかな

花冷えのみつばのかくしわさびかな

花冷えの燗あつうせよ熱うせよ

春の風ふり返らるる月日かな

雪のふる夢よりさめし朝寝かな

小でまりの花に風いで来りけり