和歌と俳句

久保田万太郎

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ことしまだ蜂の来らず花ぐもり

春深く家々かげりあへるかな

春深し鳩またくくと、くくと鳴き

あつまりてあつまりて咲くつつじかな

ゆく春のはなてるひかりかな

空の日のもののいろ吸ふ二月かな

ぬしの棲む水のねむれる二月かな

春浅く著こなす縞の著つけかな

あれこれと心づもりの餘寒かな

汀女、たま、信子、の句詠めりけり

うす月のゆめほのめくや宵節句

ものの芽にかがめばありぬ風すこし

にちにちに霞濃くなるばかりかな

銭亀のいのちのながき日なりけり

うららかに蒔かぬ種さへ生えにけり

蒲公英の黄のかくも濃し入学

勘九郎しらもも梅枝緋桃かな

うかべしは何んのなみだぞ春夕

春の夜の何かと鏡花ごのみかな

何もかもいまはむかしのやなぎかな

高遠は絵島の寺のかな

蓮華寺の花の石段み上げけり

雪の嶺のまだゆるぎなきかな

花の旅新宿の灯に了りけり

花冷えの閉めてしんかんたる障子