和歌と俳句

久保田万太郎

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春雨や枯らすに惜しきいのちの根

春雨や奇しくも癒えしわらは病

椿落つ妬心の闇にかさね落つ

蹴る鞠のそれてかげろふゆくへかな

春の日やおのずの身のこなし

櫻餅松葉屋とどけ来りけり

そのころをかたりて飽きず櫻もち

櫻餅うき世にみれんあればかな

連翹やかくれ住むとにあらねども

連翹や日々不二のくつきりと

花待てばはつ筍のとどきけり

散る花にそそぐ泪とこたへけり

白木屋の繁昌さなり花曇

やみ夜とは月夜のはての蛙鳴く

菜の花の黄色もまじへけり雛あられ

手にうけて雪よりかるし雛あられ

雛あられねもごろつつみくれしかな

年月のまことつもりしかな

はらのたつほど波たたぬ日永かな

連翹のはなちそめたるひかりかな

来し方をつつみて花のさかりかな

万亭の花冷えくらき襖かな

舟ばたを敲くは誰ぞ花見舟

声高の一人は誰ぞ花見舟

シクラメンおぼろ哀しきしろさかな