和歌と俳句

加藤楸邨

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機銃音きかねば一夜秋の風

颱風の心支ふべき灯を点ず

露の朝虫は虫ども闘へり

赤蜻蛉見たしと思うふ雲けふも

秋の雷暁遠き頬杖に

の前しばしば望よみがへる

秋の風跫音うしろより来たる

秋風に悔は遠からずたちどまる

秋の暮巨き雲負ひて街にあり

鰯雲ひとに告ぐべきことならず

天の川歩をかへすときおもひ出づ

秋刀魚焼き妻はたのしきやわが前に

さむきわが影とゆき逢ふ街の角

秋の暮あまりまぢかく人佇てり

傷兵の生きて目に見る青蜜柑

傷兵に秋風の道駅より出づ

食ふやかかるかなしき横顔と

枯野来し顔のきびしさ弛まざる

帽脱りてふたたび黙す秋風裡

髯のびて秋刀魚啖へり我は街に

君を葬る冬の浅間のとどろくとき

柩行く冬田ぞ咳のひびきける

英霊に冬芽かうかうたる畦木

遺孤五人冬の松籟をかぶりたつ