機銃音きかねば一夜秋の風
颱風の心支ふべき灯を点ず
露の朝虫は虫ども闘へり
赤蜻蛉見たしと思うふ雲けふも
秋の雷暁遠き頬杖に
月の前しばしば望よみがへる
秋の風跫音うしろより来たる
秋風に悔は遠からずたちどまる
秋の暮巨き雲負ひて街にあり
鰯雲ひとに告ぐべきことならず
天の川歩をかへすときおもひ出づ
秋刀魚焼き妻はたのしきやわが前に
さむきわが影とゆき逢ふ街の角
秋の暮あまりまぢかく人佇てり
傷兵の生きて目に見る青蜜柑
傷兵に秋風の道駅より出づ
柿食ふやかかるかなしき横顔と
枯野来し顔のきびしさ弛まざる
帽脱りてふたたび黙す秋風裡
髯のびて秋刀魚啖へり我は街に
君を葬る冬の浅間のとどろくとき
柩行く冬田ぞ咳のひびきける
英霊に冬芽かうかうたる畦木
遺孤五人冬の松籟をかぶりたつ