和歌と俳句

藤原親隆

いざよひの 程になりぬと 思へども いづらば月の 遅くかけする

さのみやは 待ちわたるべき ともふさの やすらふ程に 出づる月かな

かるもかく 居待の月も まち出でつ 今はいやすく ねもやしなまし

まどろまで こよひも明けぬ 月を見て 寝待の空は 名のみなりけり

住吉の 岸ならねども 山の端に 廿日の月を 待つぞ久しき

武蔵野の あだちの原の 木ぐれより 鹿わけ出づる 秋の夜の月

小笹原 末には結ぶ 白露の 光の間にも すめる月影

月影の 飽く夜なければ 時わかず いつもありあけと 思はましかば

惜しめども 入りぬる月は 山の端の こずゑばかりや 名残なるらむ

天の原 雲の衣は 重ぬれど たちのきて澄む 秋の夜の月

秋風に 尾花なみよる 野辺にきて ほのめく月の 影をこそ見れ

しぐれつる 空のけしきを ひきかへて ことにも月の すみのぼるかな

月影に 御津の白波 磨かれて たまゐるたまの 光をぞ増す

しづのめが ふせやの閨の 板間より 惜しくも月きの 洩りてすむかな

枯れはつる よもぎが杣の 庭冴えて しもに霜をも そふる月影

むかし見し やどのこずゑも 埋もれて 雪ふる里と なりはてにけり

ふる雪に きその通ひ路 跡たえて 駒のあしども 見えずなりゆく

わがやどは うさきが園に なずらへて 折れ臥す竹の 音のみぞする

しげりあふ 千枝のこずゑも 見えぬまで 信太の杜は 雪ふりにけり

おきつ風 吹きやる方に さそはれて 雪もとわたる ものにぞありける