脱ぎかふる 花の袂の 移り香の かをるや春の 名残なるらむ
ふしみつや かはそひ柳 花さきて 波は垣根の ものとこそみれ
ほととぎす 衣の関に 尋ね来て きかぬ恨みを 重ねつるかな
しばし待て 眞金吹くてふ 音はやめ 吉備の中山 ほととぎす鳴く
あさくらや とはぬに名乗る ほととぎす きのまろどのの なをたかしとや
あやめ草 いつかともなき わが身には もとより根をば かくと知らずや
千載集・夏
五月雨に 淀の水嵩 まさるらし 澪のしるしも 見えずなりゆく
わけてゆく しかのをびきの 隠れぬは まだ茂らぬや 野辺の夏草
しほたるる 天の香久山 何として ややとも叩く 夜半の水鶏ぞ
流しつる 麻のゆふしで かけとめて ゐせきも今日は 夏祓しつ
秋来ぬと 心にとめて 思へばや まだきに風の 身にぞしみける
待たれつる 月のなかたち いらぬまに はや舟出せよ あまのわたせに
いそのかみ ふるから小野の をみなへし 尚いにしへの すがたなりけり
蝦夷が住む 津軽の野辺の 萩さかり こや錦木の たてるなるらむ
秋ごとに なほたえずこそ おどろかせ こころ長きは 荻のうは風
うづらなく くるすの小野の 夕まぐれ ほのめきたてる をみなへしかな
月にこそ 厭ひしものを 浮雲の また雁がねを たち隠しつる
あだち野の 尾花隠れに ほの見ゆる 白毛や鹿の しるしなるらむ
結びおく うれへのをだに 露ならば 解くる心も あらましものを
千載集・雑歌
播磨潟 須磨の月よめ 空冴えて 絵島が崎に 雪ふりにけり