和歌と俳句

久保田万太郎

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玉垣のまづ冬ざれてゐたりけり

熱燗のまづ一杯をこゝろめる

貧すれば鈍の一茶の忌なりけり

つりばしを残して水の涸れにけり

蕪村忌や笹たちそめし町の中

伊勢海老の伊勢に来てまだ師走かな

山茶花の咲きてことしも師走かな

玄関の竹植ゑ足せる師走かな

ぬけなれし露次の師走の日ざしかな

極月や注連の浦村字賢

八けんの灯も衝立のかげも冬

はや冬に入りし芒のそよぎかな

石蕗の花唐にもありしためしかな

翁忌やおきなにまなぶ俳諧苦

時雨笠あはれまぶかにかぶりけり

短日や小ゆすりたかりぶったくり

東京にゐて鎌倉の寒さかな

ちくちくと胃のいたみをるおでんかな

湯豆腐や持薬の酒の一二杯

月ありて千鳥なきよる声くらく

冬の夜の人のなさけにすがるとき

めっきりとことしの冬や酉の市

山茶花のよるべみつけし日ざしかな

水にまだあをぞらのこるしぐれかな

しぐるゝやそれからそれと用のふえ