漱石忌余生ひそかにおくりけり
靄ふかき夜ごろとなりぬ漱石忌
みぞるゝやきのふの悔のにがき酒
極月の松の枯枝下ろすかな
ゆく年の蘆間がくれの滑川
ひっきやうは老いの気弱の小春かな
小春日の老のかたくななりしかな
京都でてすぐトンネルの小春かな
格子出づけさの落葉のふきたまり
あはれ一夜ぞいてふのおちば地を埋め
地にしけるいてふおちばの日をえたる
人の世の月日ながるゝ寒さかな
枯蓮の水にまばゆき入日かな
煮やつこの味は濃きほどみぞれかな
玄関に衝立くらき師走かな
あかあかと火の熾りたる師走かな
芒枯れつくして年も了りけり
年惜む酒にがき酒飲むはかな
ゆく年の水にうつる灯ばかりかな
三味線の糸で茶焙じつりて冬
窓々の灯のおちつきに冬来る
木の葉髪時のながれに溺れむや
しよせん芸もゆめもいのちも時雨かな
顔見世の京に来て見る入日かな
顔見世やおとづれはやき京の雪