和歌と俳句

皆吉爽雨

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巌壁を鳴きただようて巣鳥かも

巣の鳥の夕しば鳴けば小綬鶏も

摘まれたる茶垣むざんに小家あり

製茶場の茶の葉ふぶきて窓に見ゆ

新茶蒸すベルト煽ちにかんばしく

春惜むおのが温泉の香をふところに

ゆく春の庭土すでに蟻のもの

杖われにおくれ先んじ春惜む

山路ふと平らに春を惜み立つ

春愁のいとまなければ無きごとし

春惜しむ深大寺蕎麦一すすり

はるかなる光りも畑を打つ鍬か

木々ぬらすのみに春雪ふりやまず

あふぐ時あふぐとき雨野のひばり

ゆれかはす梢の雪塊森雪解

木ごもりに見えて久しくして初音

およぎ見ゆ春一番の野の欅

あたたかに梅散ることを眼にはすれ

遅日光白梅光と庭はいま

樋つたふ恋路のすずめ雛の昼

きて天心ことに利鎌の羽

踏青の影も恙を離れたる

迅きままに一ひるがへり雲雀落つ

かがまりて坐りていよよげんげの野

入学の出でゆくあとを祖父散歩