はしたかの すずろあるきに あらばこそ かりとも人の 思ひなされめ
夏の夜も 涼しかりけり 山川は 波のそこにや 秋はやどれる
さつき闇 鞍馬の山の ほととぎす おぼつかなしや 夜はのひとこゑ
鞍馬山 暗く越ゆれば ほととぎす かたらふこゑを それと知らずや
さよふけて 今もなかなむ ほととぎす 別れを惜しむ 声ときこえて
ひととせに ひとよのみ逢ふ たなばたを たちな隠しそ 天の川霧
天の川 霧たちわたり わたりては 誰が衣手か ひぢまさるらむ
あま雲の たちのみ騒ぐ 秋の夜は 月影さへぞ しづ心なき
ここのへの 露を置けばや 花の色の ほかの秋には 匂ひまされる
ももしきに 花のいろいろ 匂ひつつ ちとせの秋は 君がまにまに
秋の田の ひたすらにこそ 思ひつれ かりにと人に 見えにけるかな
もみぢ葉の くれなゐ深き 色みれば 水底までや 霜はおくらむ
よもやまの もみぢ葉おほく 見つれども 水底の霜 深き色かな
うへはしも したはみづうみの 波かずに おりかへしつつ 染める錦か
しぐるれば 色まさりけり 奥山の 紅葉のにしき ぬればぬれなむ
もみぢ葉の たえず山路に 散りかふは 錦をたちて ゆけばなるべし
のぶときく 齢にそへて 露けきは 年とともにぞ こひまさりける
くれなゐの やしほの色は もみぢ葉の 秋くははれる 年にぞありける
続後撰集・秋
風ふけば 幣とちりかふ 紅葉こそ 過ぎ行く秋の たむけなりけれ
とこよ出でし かりの羽衣 寒けきに 心して吹け 秋の夜の風